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レポート

2011.06.23
トラディショナルが好きです。(2008年1月)

アメリカの住宅には、モダン、モダンクラシック、トラディショナルなどのスタイルがあります。なかでも、わたしがもっとも興味があり、そして好きなのがトラディショナル・スタイルです。

どうして好きなのかと言うと、住み心地、居心地、雰囲気、空気感までも私にとっては極めて快適で、『ずーっとその場に居たい』と感じるからです。

ところで、住まいの原点は人間を厳しい・恐ろしい自然や獣などの外敵から身を護るためのもの。しかも材料は身の周りで調達できるもので建てることが基本でした。

しかし、権力や財力の蓄積とともに、ある者はより強固に、あるいは馬を走らせて遠方のぜいたくな材料を手に入れて建てるという住宅の進化が始まりました。

つまり、権力の集中や経済の発展によって、住宅は地域性を失い、均質化されたと言えるのかもしれません。

アメリカ住宅の場合、移民当時はその入植地で入手できる材料で、寒さや外敵から身を護るためだけの粗末な家しか建てられませんでした。

しかし権力や富が蓄積された発展期に入ると、故郷を想う気持ちから、ヨーロッパ伝統のスタイルを、ある程度自由に手に入れられるようになった材料と北米の巨大な森林から切り出せる豊富な木材を使い、石積みや石造りの住宅を再現する試みが始まりました。

これがアメリカ住宅のトラディショナル。つまりアメリカ伝統のスタイルという意味のトラディショナルではなく、故郷ヨーロッパを想う気持ちから始まるヨーロッパ起原のトラディショナル・スタイルなのです。

トラディショナル・スタイルの魅力

トラディショナル・スタイルが好きと前に書きましたが、なぜ好きなのか、勝手なこじつけかもしれませんが、その理由を自分なりに分析してみました。

トラディショナル・スタイルには文字通り伝統、歴史や時間経過といった物語があり、風格、余裕、寛容を感じます。多くの人々に愛され、受け入れ易いのは、年月を経て無駄な部分が排除され、魅力的な部分が発達した結果で、誰にでも受け入れ易いデザイン性と雰囲気を備えています。

こうしたトラディショナル・スタイルは、日本人のみならず、外国の人にも魅力的に映る京都の神社・仏閣を含んだ町家や世界中の人々に愛されているディズニーランドに通じるところがあり、トラディショナル・スタイルというものは洋の東西を問わず魅力的であるということではないでしょうか。

だからと言って私は、古い住宅だけが好きというわけではありません。伝統の特徴を生かして建てられた現代の住宅にも魅力を感じています。

トラディショナルは自然素材で

私はトラディショナル・スタイルの住宅を建てる際に絶対守っていることがひとつあります。それはモノトーンの新建材を使わないこと。自然の素材、特に自然の石や木材を多用することこそトラディショナル・スタイルの基本と考えています。

自然の素材にはそのものに深い味わいや風格といった魅力が備わっていますが、それ以上に加工の歴史も見逃すことができません。

木材を例にすると、もともとは構造材に過ぎなかった木材に「削る」という作業を加えることで「装飾を纏った仕上げ材」に変化していきます。

この作業によって木材に陰影や光沢などの複雑な表情が生まれ、そうした材料が作る空間に柔らかさ、温かさ、豊かさなど複雑なニュアンスが生まれてきます。

ゴシック、バロック、ヴィクトリア等の削るスタイルの特長はトラディショナルの分類の一要素であり、形を複雑にしているのがトラディショナルだと思います。

この加工の歴史に耐えてきた素材、加工に値する素材が自然素材です。

居心地を創るもの

話を分かり易くするためにトラディショナル・スタイルとは全くの対極にあるシンプルモダンの住まいを思い浮かべてみてください。

無駄を極限まで省いた住まいというのでしょうか、平らな形状で単一の色彩、造り付けの家具も壁・天井に同化させ、さらにこの家具の中へほとんどの生活用品を収納してしまうような生活感を出さない住まいです。

こうした空間のためには、近年大量に出回っている新建材がうってつけかもしれません。

でも私はこの新建材がどうも好きになれません。大量生産で安価にするため、自然素材を水増し増量させ、間延びさせた二次加工品は、平面的で同一形状、同一色と総てが均一化されています。

こうした材料で構成された空間は表情が単調になってしまいます。言い方を換えると単調で緊張感を要求される空間で、小さな置物ひとつ置くにも神経を使います。

こうした空間が好きな方も多いようですが、生来だらしない私には疲れるだけの空間で、やはり好きになれません。

つまり新建材は、シンプルモダンの住まいをリーズナブルな価格で建てるにはピッタリの材料だと言えるようでが、単一の表情しか演出できないと言えるかもしれません。

一般的に住宅には、生活をするための家具や衣服、什器、備品などさまざまな品物が持ち込まれます。

当然そこには多彩で統一性のない色や形に溢れることになる訳ですが、それでもそれぞれが溶け合い、馴染みあって、緊張感を感じさせない安らぎを感じる、それを「居心地が良い」と言うのではないでしょうか。

つまり「居心地が良い」というのは、住宅内に溢れる生活用品から住宅材、住宅部材に至まで住宅を構成する総ての要素がバランスのとれている状態といえます。

それを可能にしているのが、柔軟な加工性と何物も受け入れる大きな包容力によって、矛盾や相反する色、形でも無理なく馴染ませることができる自然素材。これこそ新建材では叶わない自然素材ならではの特長です。

自然素材なら多様な色、文様、形状を持ち、柔軟な加工性も持ち合わせ、どのような表情にも演出できます。

「清濁あわせ持つ複雑さ」が、どのような住宅スタイル、生活スタイルにもフィットする力を持ち、誰にでも快適な「居心地」をもたらしてくれます。

さらに、その歴史はアメリカの住宅史だけでなく、ヨーロッパの歴史にまで遡るトラディショナル・スタイル。それは自然素材の加工の歴史であり、多くの人が「居心地」を求めた数千年の歴史に培われたもの。

私が『ずーっとその場に居たい』と感じる「居心地の良さ」は、歴史と加工の賜物、そのものではないでしょうか。

( K.W 共記)

カテゴリー:話題

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