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レポート

2011.06.21
住宅の耐用年数(2004年9月)

映画やテレビ、または欧米への旅行で、街並や建物の美しさにふれ、深いため息をつかれたことはございませんか。

京都や奈良、鎌倉など古都を歩けば、建立数百年を超える神社仏閣の神々しさに感動し、また、忘れかけていた何かを取り戻すかのような安らかな気持ちになります。

"洋"と"和"、"石造"と"木造"、相違点は多々あります。しかし、空間として語りかけてくるものには共通するものがあるような気がします。それは完成されたデザイン、熟練工の技巧、そして永いときを経てきた素材たちがかもし出す印象的で質感的な美しさではないでしょうか。

よく、イギリスの人は古いものを大切にすると尊敬を込めて言われますが、私たち日本人もイギリスの人に負けず、古いものに美しさ、そしてやすらぎを感じるのです。

しかし、住宅の耐用年数については、欧米の住宅の平均耐用年数が100年をひとつの基準とされているのに対し、日本では、30年未満という、ずばぬけて短い年数です。しかも、新築時には多くの方が30~35年という長期の住宅ローンを組んで、予算を捻出しています。ローンを完済するかしないかというときには、もう、建替時期がきているということになります。決して悪例ではなく、数字の示す平均的な話なのです。
なぜ、日本の住宅寿命がこんなに短いのでしょうか。

住宅にとって致命的なのは、もちろん構造的な劣化です。とくに日本は地震多発国なので、建物の構造には厳しい基準があり、また、一般的にも建物の耐震性についての意識水準は高いと感じます。しかし、実際に築30年前後の在来工法の建物を解体時に観察すると、構造そのものには意外な程、傷みが少ないのです。解体するのがためらわれるほどです。

一方、部分的には、床のきしみや雨漏れの跡、水廻の傷みなど、住人の方が建て替えを決意するに至った経緯も想像できます。しかし、在来工法にとっての構造体は、基礎・土台・柱・梁・小屋組みであり、床や壁、雨仕舞は構造に準ずる部分なのです。

つまり、多くの住宅は致命的な構造的劣化を待たずして取り壊されているということが言えます。
なぜ、欧米の住宅が構造的な寿命を全うし、100年前後、住み継がれるのに対し、日本だけが違ってしまったのでしょうか。

一番大きな原因は、ライフスタイルの劇的な変化とそれに伴う趣向の変化ではないかでしょうか。

旧来、布団で寝て、畳に座布団を敷いて座し、ちゃぶ台で食事をしていた生活から、ベッド、ソファー・ダイニングテーブルなどと洋式の生活様式に急激に変化しました。そして、洋式なりの美しい空間を追求し始めました。

一方、その舞台である住宅の方は、基本的な設計思想に変化が及ぶのに一世代以上の時間を要した感があり、たとえば、洋室と和室の違いが非常に曖昧で、床が畳か否かぐらいしか認識しかなかったり、中には、苦肉の策として、畳の上にカーペットを敷き、洋式の家具を置くといった生活を経験された方も多いと思います。

もちろん、日本人が日本で生活するわけですから、日本的な生活習慣、生活様式を全て排除できません。また、玄関で靴を脱ぐことや、浴室には、洗い場と肩まで浸かれる深めの浴槽があるなど、欧米の人から感心されるような生活様式もあります。 しかし、欧米化した生活様式とほんの小手先だけ洋風にした一般的日本建築には、根本的なミスマッチがあり、結果、使い勝手が悪く、そして、美しくありません。

熱心な方ほど、欧米のインテリアやガーデニングなどを本当によく研究し、見事なまでに再現しても、何かしっくりこないというジレンマを感じているようです。それはそのはずで、心血を注いでつくった、こん身のフランス料理をそこにあった和皿に盛り付けるような行為に似ていて、ちぐはぐさから常にストレスを感じるわけです。そのストレスが建替えの決断の引き金になっているのではないでしょうか。

もうひとつ、一般的な住宅を早命にしている要因があります。それは新建材です。

新建材は、熟練工の必要性を軽減し、施工性を高め、建築コストの削減、工期の短縮について、革命的な進歩に寄与しました。しかし、同時に土地と同じ不動産であるべき建築物を、自動車や冷蔵庫といった耐久消費財化してしまったと言えるでしょう。

たとえば、ムクの床材は、若干反ったり、縮んだりといった欠点もありますが、古くなったり、傷ついても、むしろ味わいを増します。

ハリモノの床材は、新しいときはそれなりにきれいですが、古びたり、傷つくと目もあてられません。張り替えようとすれば、剥がした上で、下地を直し、あらためて新しいものを貼り直すわけですから、余分なコストがかかるのです。木製の窓なども欠点だらけのようですが、戦前の旧家の美しさに大きく寄与しています。アルミサッシは性能や耐用性は非常に優れていますが、建物の外観やインテリアの美しさをぶち壊しにすることもあります。

もちろん、新建材なしに住宅を建てることは、今の時代、現実的には難しいと思います。ただ、新建材を万能な神器のごとく頼り切ってしまうと、一生の買い物に大きな後悔を残すことになります。

格安とか、フリーメンテナンスとか、セールストークを鵜呑みにせず、すべての建材の質感にこだわりを持つ必要があります。

幸いなことに日本の町中が新建材で建てられた住宅にあふれています。外装材でも、内装材でも10~20年後どのような状態になっているのか、それを自分としてはどのように感じるのかをよく確認してください。

欧米や古都の建物の素材が古さとともに味わいを増すのに対し、おそらく、ほとんどの新建材が新築時の美しさを失いつつ、古ぼけているでしょう。

ただ、それが耐え得る程度なのか、容易にメンテナンスができるものなのか、それとも耐え難いものになっているのかを認識してください。その上で、外壁や屋根などの外装材や床や壁などの内装材を選ぶことが大切だと思います。

また、デザインの話に戻りますが、住宅が古くなったときの印象は、デザインの印象の良し悪しに大きく左右されます。

新築時に流行っていたデザインが、10年後に陳腐化し、素材の劣化とともに余計に古ぼけた印象を与えることがあります。完成度の高い優れたデザインは素材の劣化を帳消しにする力がありますし、デザイン性の低いものは逆に増長します。

決して、予算をかけて贅を尽くすというのではなく、美しさやデザイン性というものが、長く住める家の重要な要素であることを認識し、使い勝手と同じくらい配慮すべきだと思います。輸入住宅は、思想は欧米の住宅をなるべく忠実に再現することですから、欧米化したライフスタイル、趣味趣向をしっかりと受け止められます。

また、ムク材の建材を合理的な価格でご提供できますので、コストを上げず、新建材の使用を減らすことができます。それは、長く住まえる住宅としての素質の高さではないかと自負しております。

家を建替えようか、住み替えるにしても新築にするか、中古を探すか、はたまたマンションか戸建てか、それとも増改築しようか、誰もが深く悩みます。

家族構成の変化、年齢、経済状況、両親との同居、現在の住まいの問題点、住まいについては、ご本人やご家族でしか判断し得ないことが、とても多いです。

また、最終的な選択が正解であったか、どうかは死ぬまでわからないことが多いのではないでしょうか。

ときとして、理想の家に住むことが、人生の目標のように思えてしまいます。多くの方のお住まい作りのお手伝いをさせていただいた経験を重ねるほど、それは違うと確信が強くなりました。

住み替え、住まい作りの方針に迷ったときは、何のためにそうするのかを思い返してください。

目的を見失うことなく歩き続ければ、必ず正解にたどりつきます。新築でもリフォームでも輸入住宅的な発想、方法でお手伝いできることは、沢山あると信じております。

カテゴリー:話題

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